今週買った本ー岡本隆司『曾国藩ー英雄と中国史』(岩波書店、2022年)ー令和4年7月23日(土)晴れ
購入動機
私が清末の政治家・曾国藩をはっきり意識したのは、安岡正篤氏の『東洋思想と人物』(明徳出版社、平成十一年)によってであった(以下、敬称略)。名前は世界史の教科書にも出ていたのかも知れない。
安岡の同書は、大正十年に『支那思想及び人物講話』として出版されたものであり、目次は下記のようになっている。
(目次)
支那思想と人物の研究について
儒家政治思想の根本問題
墨家の社会思想及びその運動
楊子の個人主義
荘子と死生観
敬慕すべき凡人白楽天
流離の間における天才蘇東坡
哲人宰相湛年然居士
高青邱詩日記
偉人曾国藩の内面生活
冒頭、職業生活が内面生活を荒廃させるという問題を提示し、克服できない者は曾国藩の内面生活を見てみよという。曾国藩の生涯を「敬」という言葉で表し、曾が日常生活に細心の注意を払っていた人物であると説く。その上で安岡は、我々にこう語りかける。
「我々が暮らしてゆく一日一日を実際によりよくしてゆくことの他に道徳も宗教もないのである。すなわち我が一日一日を誠敬にしてゆくかが彼の問題である」(334頁以下)。
また安岡は、「すべて道に入る者に普遍必須な用意は精神の統一、注意の集中である」(336頁)として、曾が「静座」を重視したと説明し、曾が「動中の工夫」の人であったと説く(338頁)。
そのほか、言葉を慎むことや、試験に不合格になったことごときで落ち込まぬように弟に伝えたエピソードを語り、読者に曾国藩の人物の素晴らしさを語るのである。
そのような偉人の伝記として、さらなる知識を得たいと思い、本書を手に取ったのである。とはいえ、知らない著者の本を手に取って、失敗したくないという気持ちもあった。
●過去記事:私の読書の前提を、安岡正篤氏から学んだ言葉で説明しているので、是非ご覧ください。
だがよく考えると、著者の岡本隆司氏は、『表現者クライテリオン』の2021年3月号にも登場し、「中国を知らない日本人」と題して、藤井聡氏が話を聴いていた。だから、ひとまず読んでみようと思い、早速購入した。
パラパラ見た限り、曾国藩の生涯を、彼を取り巻く政治史を中心に描いた書のようである。(今日買ったばかりなので、ページをめくっただけである。)
1980年代に『曾国藩全集』を中国で買って以来、同全集が「手になじんだ」ものであるという岡本氏だけに、たくさんのことが書かれてあるので、その点は、lesemeisterの書物として素直に吸収したい。また岩波新書には同じ著者の『李鴻章』『袁世凱』が収めれられており、時間とお金があれば、購入する予定だ。
とはいえ、私の憧れる学問は「自分の内心に強く響く、自分の生命・情熱・霊魂を揺り動かすやうな文獻を探求し、遍参した」(安岡正篤『陽明学研究』明徳出版社、平成十一年、2頁)なので、依然として安岡正篤の「偉人曾国藩の内面生活」の方が好きだ。
でもまだ読んでいないので、他の本も含めてチェックしたいと考えている。