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書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。日本でのアニマルウェルフェアの推進に賛成します。

睡眠ログを見入ってしまうースマートウォッチfitbit charge2を購入

睡眠ログを見入ってしまうースマートウォッチfitbit charge2を購入 ★★★★☆

前回、最新の科学的知見から睡眠の大切さやコツを説いた本を紹介しました。

今回は自分の睡眠の記録にも役に立つスマートウォッチを紹介します。 

 <購入までの経緯>

 デスクワークに移ってから、昼休みを除いて仕事中に歩くことがほとんどなくなった私。危機感を持ち、4,5千円ぐらいのカロリー計を購入しようと思っていました。

 

ですが、心拍数や血圧なども記録できるなら、お金を出してもいいなと思い、スマートウォッチについてレビューなどを読んでいました。

 

最初、アマゾンなどで3千円ぐらいの商品を購入しようと考えていました。初心者だから最初は安いものでもよいと思っていましたが、故障などのレビューを読むと「安物買いの銭失い」になることを恐れる気持ちが出てきて、2万円ぐらいを予算にして購入を検討しようと思い直しました。

 

購入にあたって必要な機能の条件は最低限、心拍計、カロリー計算、歩数計を備えているものが良いと考えていました。血圧計も欲しかったが、レビューなども考慮に入れると、どこまで正確なのか分からなかったので、最終的には条件から外しました。

 

メールの着信機能や音楽プレーヤー機能などあればいいと思いましたが、他の機器で代替可能なので、重視していなかったです。ただ満員電車では、便利だとは思っていました。

 

しばらくの間、基本的に24時間つけるつもりだったので、会社と睡眠時に邪魔にならない付け心地のものを選ぶ必要がありました。これは通販では購入できないと考え、会社の研修を受けた帰りに、大型家電量販店に行って、直接購入することに決めました。

 

<fitbit charge2を購入>

アマゾンである程度あたりをつけていたのですが、実際見た感じでもfitbitの商品が、未来的なイメージにぴったりだと思い、最有力候補にしていました。

 

既に新製品charge3も出ていましたが、2万2千円ぐらいだったので、今回はしっかり予算を守って、1万9千円ぐらいのcharge2を購入しました。

 

<1週間使った感想>

これから購入する方は、専用のアプリをスマホにダウンロードして、ペアリングさせて使うものである点に注意してもらいたい。

 

・まず、着け心地はひとまずこれでよい。分厚くないので◎。軽いのも◎。

・正確性:歩数がちょっと多めにカウントされているような感じがする。毎日一万歩達成しているが、本当なのだろうか。

・カロリー計算は、あらかじめ打ち込んだ身長・体重・年齢・性別により基礎代謝が判断され、一日の運動量や食事のカロリーなどを考慮して+-が分かりやすく表示される。

・食事は数値でカロリーを入力する仕方や、名前で検索し、該当するものを選ぶ仕方もある。料理の名前が分かれば、カロリーのみならず、たんぱく質や脂質などもパーセンテージで表示される。

・基本画面には目標の水分量や安静時の心拍数が出る。

スマホの基本画面で心拍数は、1日の推移をグラフで見ることができる程度。時間的には細部まで表示されず大体把握するのによい程度。ただし、時計のディスプレイでは、ボタンを1回押すと、常に心拍数はカウントされている。カウントの正確性は、少し大げさかも知れない。ジムのウォーキングマシーンで120ぐらいだったものが、私のcharge2では145ぐらいになっていた。歩数も心拍数も少し多めかも知れない。

・何よりも面白かったのは、睡眠ログである。購入する前は、睡眠時に時計を付けるのに違和感があったのだが、今は朝起きて、どれだけ眠っていたかを見るのが楽しみである。目覚めた状態、レム睡眠、浅い睡眠、深い睡眠の4つが区別され、それぞれ時間で示される。寝始めた時間と起きた時間の表示もかなり正確で驚いている。これだけでも購入する価値がある。

 

まだ使い始めなので、分からないことも多いが、

・防水がどの程度なの正直分からない。

・メール通知は対象機種が限られているのだと思う。ちなみに私のものは対象外。

・血圧計はない。

・バンド部分は手軽に交換できるようなので、サイズが気になる人や24時間つける人にも安心だ。サイズはSとLの2種類だった。

 

 

大体こんな感想です。

購入前には重視していなかった睡眠ログにはまってしまった。

睡眠を重視するひとは、前回の本とこのスマートウォッチスマートウォッチを合わせて使ってみてはどうだろうか。

 

 

 

 

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西野精治氏『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版、2017年)

西野精治氏『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版、2017年)

 

 

最近、こういう一般向けの体調管理・健康本を読むことが多い。『一流はなぜ風邪をひかないのか?』や『スタンフォード式疲れない体』などなど。

残された人生を有意義に使いたいから。よりよい仕事をしたいから。哲学書思想書よりもこちらに目が行く。

 

私が睡眠本を選ぶときの条件や要求は、以下通りである。

 

・時間:ノンレム睡眠レム睡眠の90分周期の計算をするのは面倒くさいから、それ以外のことで有益なアドバイスが欲しい。

・体温:深部体温を気にし過ぎると生活が苦しくなるから、それ以外のアドバイスが欲しい。

・寝具:寝具のセットを買い替えるなど難しいから、それ以外のアドバイスが欲しい。

・午後のデスクワークの眠気をなんとかしたい。そのため最近今まで飲まなかったコーヒーを飲んでいる。

・朝、目覚めをすっきりしたい。

・会社に遅刻することなく起きたい。

・寝る前のパソコンをどう考えたらよいか。

・熱い風呂が好きだが、帰宅後に入ってもよいのか。

さまざまな疑問を持って暮らしている。

 

著者は浅田真央さんで有名になった「エアウィーヴ」の開発研究にも加わった、スタンフォードの医師・西野精治氏である。元来は、「ナルコレプシー」の研究者ということで、科学的証拠に基づいたエビデンス・ベースの知識を教えてくれる。

 

<メモ>

・ノンレム睡眠レム睡眠は必ずしも、90分周期とは限らない。

⇒90分の倍数で寝ても、目覚めが悪いことがある。それよりも寝始めてからの90分の方が大事であることを強調している

睡眠負債はやはり危険。眠りには真剣に向き合うべき。というより夜眠いとおもったら、寝よ。睡眠不足での運転は、飲酒運転より危険。瞬間的居眠りがあるから。

*確かに一度眠気を逃したら眠くなくなることがあるなー。

・我が国は、睡眠偏差値が低い。

 ・眠りには深部体温が深く関わっている。深部体温は上がった分だけ大きく下がるので、それを利用して入眠せよ。

・寝るとき足が冷えて眠りにくい人は、最初に靴下を履いて、途中で脱げとのこと。履いたままは熱の放散が起きないからダメ。

*これは私も自然とやっていた。

・どんないい寝具でも室温を整えておかないとだめ。

・枕の高さは、気道確保の観点から低い方がいい。鼻呼吸することも大事。

ブルーライトの影響がよく言われるが、かなり近づけて長く見なければ、そこまで気にする必要はない。

⇒よかったー。

・睡眠と覚醒は表裏一体。朝起きてからの行動が、睡眠に影響する。

⇒覚醒には光と体温が大切。日光にあたり、ごはんを良く噛んで食べよ。

・朝ぶろよりもシャワー。深部体温が上がった分だけ下がるから。

⇒金持ちになったら、朝ぶろしたかったが、こういう理由であまりよくないらしい。

・適量のコーヒーは、健康にいいと考えられるが、午後2時ごろまでにしている。

 

※現在の私は、朝型生活に変えており、約7~8時間寝て、早朝にジムに行っているから、ひとまずこんなメモでいいだろう。

 

その他にも、ナポレオンのような短時間睡眠は、遺伝的な要素が大きいなどおもしろい話しも載っているので、若い人にもおすすめできる。値段も1,620(税込)なので、買える方には一読をお薦めしたい。

 

また別の著者の 『スタンフォード式疲れない体』の感想なども書いていきます。

 

スタンフォード式 最高の睡眠

スタンフォード式 最高の睡眠

 

 

*カテゴリーが古くなってきたので、しばらくしたら、作りなおす予定です。

週5日・早朝トレーニングを推奨!ー宮田和幸氏『「一流の身体」のつくり方』

週5日・早朝トレーニングを推奨!ー宮田和幸氏『「一流の身体」のつくり方』(CCCメディアハウス、2018年)

 

6歳から柔道を、10歳からはレスリングを始め、シドニー・オリンピックに出場経験のある総合格闘家宮田和幸氏が書いた一般人向けの身体トレーニングの本である。故山本キッド氏との対戦も有名である。

 

全体としては、バーベルやマシンよりも、ダンベルや自重トレーニングを推奨している。それは、宮田氏がボディービルダーやフィジカーよりも、スポーツ選手をモデルにしているからだろう。その関係から、巻末のカラー写真の見本も、自重トレーニングが中心である。

 

現在の私の関心からすると、早朝・高密度トレーニングの経験談が興味深い。

 

大学を卒業してから会社員となった宮田氏は、オリンピック出場するための練習時間を確保するのに苦労していたという。

 

午後5時に会社が終わったとしても、トレーニングを開始するのは、7時ぐらいになる。なので、大会に出ても、学生時代とは比べ物にならないぐらい、成績が悪くなったのだ。

 

そこで思い切って朝型の生活に変えて見たという。つまり、朝5時に起きて、5時半から1時間だけトレーニングをするようになったのである。それが成功したという。

 

とはいえ、朝型でトレーニングをすると、出社のタイムリミットがあるから、高密度でトレーニングをするようになった。高密度というのは、「終わった後に3分くらい休まないと次のセットに行けない運動」(60頁)のことだという。

 

これを朝に30分~1時間行う。しかも、平日に5日間である。

 

筋トレは毎日すべきではなく、週1~2回ぐらいにとどめておくべきだという見解があるが、宮田氏の場合、体を大きくする、筋肥大を狙ったトレーニングを念頭に置いていないからなのかも知れないが、週5回のトレーニングを薦めている。この点、見解が分かれるかも知れない。

 

だが、私は会社員でありながらオリンピック出場経験がある宮田氏の朝型トレーニング経験を参考に、何事も出社前の朝に取り組みたいという気持ちを強くした。

  

40代になる前に筋トレの大切さに気がつかないと、次の「トレーニング」は「リハビリ」になるかも知れないという警告は、仕事で忙しい中年には耳の痛い言葉であろう。

  

 

「一流の身体」のつくり方 仕事でもプライベートでも「戦える体」をつくる筋トレの力

「一流の身体」のつくり方 仕事でもプライベートでも「戦える体」をつくる筋トレの力

 

 

 追記 平成30年12月2日(日)

プロテインについて

宮田氏もプロテインを飲むことを推奨している。

宮田氏が使っているのはHALEOのアミノ酸ということだ。

 

それに対してフィジカーらが紹介しているような、そして私も使っている海外のプロテインについてはこう述べている。

 

「値段が安いと言ってバケツ状の容器で売られている輸入品のプロテインを買う人が結構います。特に、あまりお金を持っていない若い人たちがこれに飛びつくようです。ただし、これらの商品にはスポーツ界で禁止薬物に指定されている物質が入っていたりするので、スポーツ競技の公式大会などに出場する予定のある人は十分気をつけてください」(126頁)

 

一瞬ドキッとするような記述であるが、これはあくまでもかぜ薬などもひっかかるようなスポーツ大会のドーピングの厳しい基準からみて禁止されているという意味であって、健康に害があるとまでは言っていないと思う。

 

確かに宮田氏が言っているブランドは、用品店で見たことがあるが、「どんな人が買っているのかな?」と思っていた。なるほど、大会に出るようなスポーツ選手が使っていたのか。結構長い間の謎が解けた。

 

こんな感じかな?私的には下の青いボトルをよく見かけたが。

 

バルクスポーツ アミノ酸 BCAAパウダー 200g ノンフレーバー

バルクスポーツ アミノ酸 BCAAパウダー 200g ノンフレーバー

 

 

 

(HALEO) C3Xハイパー 1000g グリーンアップル

(HALEO) C3Xハイパー 1000g グリーンアップル

 

 

 

 追記(平成31年1月20日(土))

もう十分読んだので、

古本屋に売りました。

部屋を本だらけにしないためです。

 

追記2(令和元年10月1日(火))

上記プロテインサプリメントに関係すると思われる会社の物語がAmazonのサイトに掲載されていた。日本の仙台にあるらしい。おもしろいので、リンクを貼っておきます。

 

youtu.be

impetus 英検1級の英単語豆知識 2

impetus 英検1級の英単語豆知識 2

 

すっかり寒くなりましたね。

久しぶりに英検1級の話です。

 

本日取り上げる単語は"impetus"です。

 

"impetus"の意味を考えることを通じて、一つの言葉の背景にも、何百年にもわたる文化的な背景があるということを提示したいと思います。

 

まず私が持っている『英検 Pass単熟語 1級 [改訂版]』(旺文社、2005年)によると、その意味は「はずみ(=momentum)、刺激、動機(=incentive)」だということです。

 

リーダーズ英和辞典 第2版』(研究社、1999年)によると「起動力、勢い、はずみ;( (抵抗に逆らって動く物体の) )運動力、奨励」とあるので、何となく同じ意味であることが分かるでしょう。

  

でも、これだけでは覚えられない人がほとんどだと思います。

ところが私は、単語帳を見る前に知っていた。何故か?

 

それは伊東俊太郎さんの本を何冊か読んでいたからです。

伊東俊太郎昭和5年、東京生まれ)さんは科学哲学者、科学史家、比較文明論者として堅実な業績を築いた方です。私は例によって呉智英『読書家の新技術』でその名前を知りました。学者としてこのぐらいの業績があれば素晴らしいと思える方です。この点についてはまたあらためて記事を作成したいと思っています。(上掲書の中で呉氏の科学史・科学哲学・科学社会学関係の読書案内は、今から振り返ってみても重要な人物(村上陽一郎氏、廣重徹氏、吉岡斉氏ら)をピンポイントで紹介しており、人文社会系が得意と思われる呉氏なのに、その「目利き」ぶりは確かであった言えると思います。

 

私が伊東さんの本で感銘を受けたのは、『近代科学の源流』中央公論社、1978年、自然選書の中の一冊。現在は中央文庫に収録されています)です。この本は、我々が知っているニュートンガリレオなどの「科学革命」以前の科学の世界、古代末期から中世の科学の歴史を統一的に描写したものです。購入したのは高校生の時だったと記憶しているのですが、とても読みとおせなかったので、10年ぐらいかけて読んだと思います。

 

同書では、近代の「科学革命」以前のヨーロッパの科学や独自の発展を遂げてヨーロッパにも強いインパクトを与えたアラビア語でなされた科学を描写しています。

 

「従来、科学史では、デカルト(Rene Descartes)、ガリレオ(Galilleo Galilei)などの十七世紀の「天才たち」にもっぱら光があてられ、それ以前の中世は暗黒時代であるかのような叙述がなされてきたのは、「ルネサンス」以来の偏見によって、中世科学の資料が、長い間写本のまま僧院や図書館の奥に、研究されないで埋もれてしまっていたからである」(18頁)。

 

私たち(私?)のイメージの中にある、ルネサンスを経て、17世紀ごろからガリレオケプラーニュートンらによってそれ以前とは「断絶」されたようにに生じたと思われている「科学革命」の歴史は、それ以前の歴史からの「連続性」知らなかったことで過度に強調されているとも言います。

 

「十七世紀のいわゆる「天才」たちに先立つ時代の独創的理論がすべてマニュスクリプトのうちに埋もれており、後世の人々に知られなかったために、レオナルド・ダ・ヴィンチ Leonardo Da Vinciをはじめとする近代の「天才」たちの思想がことさらに斬新に見え、実際そうである以上に独創的に映ったのは蔽えない事実であろう」(19頁)

 

クワインデュエムのテーゼ」に名を残す、ボルドー大学の教授ピエール・デュエことも、中世の科学を本格的に研究した人物として、革新的な説が紹介されています。

 

 

 

●インペトゥス理論

それでは「インペトゥス理論」とは、どのようなものなのでしょうか。

 

「今日近代科学氏の標準的入門書となっているケンブリッジ大学の歴史家バターフィールド H. Butterfieldの『近代科学の起源』The Origines of Modern Scienceもその叙述を中世の「インペトゥス理論」から始めている」(伊東・上掲書、19-20頁)。

 

 『科学史・技術史事典』によれば「広義には、投射体に関するアリストテレス運動理論を批判する形で展開された古代中世の運動論を指す」。「狭義には、パリ大学の教授ジャン・ピュリダンの運動理論を指す」。理論の要約としては、「投射体を囲む媒体中に駆動力を認めるのではなく投射体そのものに駆動力が内在すると主張する」(74頁。高橋憲一氏による記述)。

 

なぜ『リーダーズ英和辞典 第2版』が「*1運動力」という記述をしているのか、何となく分かるでしょう。

  

アリストテレス

西洋の自然科学の出発点となったアリストテレスの『自然学』では、「常に運動させるものが運動するものに接触して力の作用を及ぼしていなくてはならない」のであり、これが「アリストテレス運動論の根本原理」だという(128頁)。

 

とはいえ、アリストテレスのこのような考え方で、様々な「運動」を考察すると、次のような問題が発生する。それが手で投げられてた石の運動のような問題、すなわち「投射体」の問題である。

 

「石か何かを投げた場合、投げる手の力の作用によって運動が起こるのはよいが、手を離れた後も石はとぶびつづける。このときにはすでに手の力の作用はないわけで、それにもかかわらずその投射体の運動が持続するのはなぜであるのか」(128頁)

 

これに対してアリストテレスは「空気後押し説」とも呼ぶべき説を唱えた。それが上述の事典での「投射体を囲む媒体中に駆動力を認める」考え方である。ここでは、媒体が空気なのである。

  

アリストテレスの「空気後押し説」とは、「手を離れた石の周りにあってこれに接触しているものは空気しかないゆえ、この力の作用で運動がつづくと考えるほかない」(128頁)。

 

●フィロポロス

それに対して6世紀のアレクサンドリアの人フィロポロスは、「石によって押された空気が自分で器用に逆戻りして後ろから石を押すというようなことはありえない」と批判した。なぜなら「もし石の運動が空気の後押しによってなされるならば、石に直接手を触れずにその後ろにある空気だけをーたとえばいろいろな機会でー動かしても運動が起こってもよさそうだが、そんな仕方では石は一ペーキュス(約四五センチ)も動きはしない」からである(128頁)。そうではなく、「投げる手から、投げられる石へと、「ある種の非物体的運動力」が移しこめられ、以後、物体に内在したこの「運動力」によって投射体の運動持続されるのである」(129頁)。つまりフィロポロスは、「運動力が起動者から媒体にではなく、直接、投射体そのものに移される」という説を唱えたのである。これが「インペトゥス」理論の原型である(271頁)。

 

「ここに「ある種の非物体的運動力」と呼ばれたものがアラビアにはいってアヴィセンナやアブル=バラカートの「マイルmayl」の思想となり、後期のラテン世界では「インペトゥス impetus」の概念となって、十四世紀の「ガリレオの先駆者たち」により詳細にねり上げられてゆくのである」(130頁)。

 

「若きガリレオも力学研究をこの「インペトゥス」理論を土台として開始したことは周知のとおりである」(130頁)

 

と言います。

 

伊東さんの著作を通じて、英検1級の出題されうる単語"impetus"が、これだけの文化的背景を持った言葉だと知ることができ、単なる検定試験の勉強ではなく、知識史に対する興味が湧いてくるでしょう。

 

英検1級はこのように勉強してこそ意味があると思いますし、このようなエピソードとともに記憶した言葉は忘れることはないでしょう。

 

 

近代科学の源流 (中公文庫)

近代科学の源流 (中公文庫)

 

 

 

 追加(平成30年11月24日)

Impetusをどのように訳すのかについて。

伊東氏は人類の知的遺産シリーズの『ガリレオ』において、「インペトゥス」の訳について以下のように述べている。

「「インペトゥス」にはしばしば「いきおい」という訳語が当てられているが、これはあまり適切ではない。impetusはimpetoという動詞から来ており、これは「突進する」の意であろう。また、「インペトゥスあるいは運動力といわれているように、物体に内在する運動力vis motivaを意味しているが、「いきおい」というのは運動の状態であって、こうした内在的運動力の意味は希薄である。「衝撃」という訳もあるが、これは力の作用を受けた結果を表すもので、運動自信のもつ運動力の意味を欠くゆえ、やはりよくない。しかし「突進力」という訳語もまだ熟していないので、本書ではこうした意味であることを了解した上で、「インペトゥス」とカナ書きしておく」(『人類の知的遺産31 ガリレオ講談社、昭和60年、104頁)。

 

事柄の内容を検討し、そこから適切な訳語を探るプロセスを知ることができ、「インペトゥス」以外の事柄であっても翻訳の際に参考になるだろう。

 

*1:抵抗に逆らって動く物体の

中野剛志氏の貨幣についての動画

政治家の勉強会でなされた中野剛志氏の貨幣についての動画。「現代貨幣論」に依拠して、竹中平蔵氏、スティーブ・ウォズニャック氏、東浩紀氏、橘玲氏らの「商品貨幣論」を俎上に載せて、批判している。仮想通貨をどう考えるのかなどの見解も含んでおり勉強になります。興味のある方はどうぞ(当記事は政治家支持を訴えている訳ではありません。念のため・・)。


「日本の未来を考える勉強会」ー貨幣と経済成長ー 平成30年3月7日 講師:評論家 中野剛志氏