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書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。日本でのアニマルウェルフェアの推進に賛成します。

日本のために日本だけを見ていてはいけないー副島隆彦氏『アメリカ騒乱に動揺しながらも中国の世界支配は進む』(ビジネス社、2021年

日本のために日本だけを見ていてはいけないー副島隆彦氏『アメリカ騒乱に動揺しながらも中国の世界支配は進む』(ビジネス社、2021年)

 

副島隆彦氏の本を買ったのは久しぶりだ。私は、毀誉褒貶があっても副島氏の「覇権」系の本には学ぶ点があると考えている。どういう訳なのか氏の「言い切り」が私の思考を刺激するからである。とはいえ、批判的摂取なので、始めに以下のことは留保させていただく。

  

<留保>

 *アメリカ大統領選の選挙不正の真偽。

 *アポロ月面着陸否定論の真偽。

 *尖閣諸島について、田中角栄福田赳夫路線が正しかったのかについての評価。

 *香港のデモについての評価。
*その他これから読み返した際に留保したいと思ったこと。

 

  購入動機ーなぜ副島氏の「中国本」か

 日経新聞などで毎日中国の記事を読んでいても、忙しくて読み流すだけであり、まとめが欲しい時がある。他に適した本もあるだろうが、このタイミングで私は副島氏のこの本を買った。

 新聞広告に出ていたキーワードが面白かったからである。

 「核兵器半導体、5G、量子暗号、宇宙開発からスマホアプリ、エンターテインメントまで、次なる世界の中心となる「中華帝国」の実態!」、「それでも「アジア人どうし戦わず」である!」。

 もちろん副島氏が古くから、反中保守とは一線を画していたこともある。 ファーウエイ、テンセント、アリババなどが連日のように新聞を賑わす。でも現在日本の書店には「反中本」が溢れていて、正確に認識できているのか不安を感じるのである。

 

著者は様々なことを言っているが、以下記憶に残った箇所をメモする。

 

1.

中国はトランプ対バイデンの選挙戦を見て、アメリカを頂点とするような民主主義に失望している。中国はアメリカをお手本にすることをやめて、自前の思考で進もうとしている。 

重要なことはアメリアから中国へと覇権国が交代することである。そこで中国がこれからどうなるのかが問題となる。

この先、我々が進むべき道は、「アジア人どうしは戦わず」であって、日本の反共右翼のように尖閣問題で一戦構えるということではないのであるというのが著者の立場である。 

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ピルズベリー:キッシンジャーの愛弟子。『China 2049』は師キッシンジャーへの苦情。中西輝政本『アメリカ帝国衰亡論』で、ニクソン政権とキッシンジャーが「隠れ親中」だったとの記述あり(p.67)。

 ピーター・ナヴァロ:チャーマーズ・ジョンソンの薦めで中国研究を始めた。

選挙不正は英語で、"rigged election"

デルタとCIAの争いがあった。ドイツのフランクフルトのドミニオン社のサーバで?

大紀元・エポックタイム:法輪功系の新聞

イレイン・チャオ(アメリカ運輸長官。チャイナ・ロビー。親国民党。共和党ミッチ・マコーネルの妻):2019年の天皇即位式にペンス副大統領の代理として出席 

アメリカ国防総省が軍事企業に指定した35社のリスト(54-55頁)

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2.

中国は「特色のある社会主義」であるという。その中で総合体力=経済力、金融力、情報力、技術力、軍事力をつけている。

中国がマルクス主義から脱却するカギは、森嶋道夫の理論にあった。現在の中国では、能力の格差や人間の生み出す経済的価値の不平等を認めてしまっている。 

3.

本章では、中国の最先端技術が扱われる。半導体、核開発、量子力学を応用したコンピューター、暗号などである。

現在、中国の科学技術を牽引している重要人物が簡潔なプロフィールとともに写真入りで掲載されており、有益である(104頁)。海外に留学し、著名な物理学者フェルミや航空工学者カルマンなどから学んで、研究業績を残しているのである。種本は遠藤誉氏の『中国製造2025』である。

4.

続いて、テスラと国家副主席王岐山との関係、デジタル人民元習近平とアリババのジャック・マーらとの関係が扱われる。

中国が「一帯一路」やAIIB(アジアインフラ投資銀行)を通じて、大陸方面に伸びていっているのだから、尖閣だけを問題とする日本人を視野が狭いと批判する。

5.

最後にこれからの中国の姿が論じられる。著者によると、中国は現実派の上海閥習近平と理想派の共青団李克強に分かれているが、 中国は、ヨーロッパの旧王族や大貴族たちの頂点にいるイギリス王室らの「ディープステイト」に対して、アヘン戦争以来の雪辱を晴らし、覇権国となり、「欧米近代白人文明500年の繁栄」が終わろうとしている。

 

<感想>

 私にとって特に重要だったことは、以下の2点である。

 

①イギリス⇒アメリカ⇒中国と覇権が移り変わろうとしていること。

 それを副島氏は、アヘン戦争後イギリスに割譲された香港⇒アメリカとの貿易戦争⇒アメリカの失墜⇒中国のハイテクやエンタメなどの発達などを織り交ぜて、描こうとする。

 (223頁の年表では1815にイギリスがナポレオンを撃破して、第一次大戦後の1914年にアメリカが、2024年アメリカの内乱の後をうけて中国が新たな覇権国になるとしている)。

 副島氏は中国が民主化するというが、その根拠がもうひとつ分からなかった。とはいえ、次の中国のキーワードは民主化という点では中西本と変わらないと思った。

  

個別の中国の動きを見るのみならず、世界史の大きな流れを捉えている点で、有益である。

 

(ただし、香港がもともと中国の領土だったからといって、強権政治を問題なしとは言えないのではないかとは思う。それにあの運動を否定しておいて、民主化するというのもいかがなものなのだろうか。)

  

②中国のキーパーソンらの学歴・経歴があまりにも興味深かった。(104-105頁)

 核開発を主導した銭学森(1911-2009)はカルマンに師事。マンハッタン計画にも参加したという。(母方の祖母は日本人とのこと!)

銭三強(1913-1992)は「原爆の父」と呼ばれ、清華大学を卒業後、パリのキュリー研究所に留学し、マリーキュリーの娘イレーヌ・キュリーの下でウランの核分裂に成功したという。中国初の原爆実験、水爆実験にも成功したという。それから半導体業界や量子力学を研究開発し、企業を成功に導いている人の経歴も興味深い。(詳しくは遠藤誉氏の『中国製造2025の衝撃』を参照のこと。)

こんなに重要な二人を知らなかった。呉智英の読者だから薮内清やJ・ニーダムらの名前は知っていたが、やはり古い知識だ。日本が世界の中で生き残っていくには、「世界で活躍している日本人」を褒め称えるだけではダメで、ライバルとなる人物を知っておかなくてはならないなと改めて実感した。反省。猛省。これは本当に反省。

 

サッカーのワールドカップで、日本チームや世界的プレーヤーを応援するのが普通である。だが、対戦相手となるスターティングメンバーは発表されるし、「要注意人物」は「マーク」するだろう。それと同じように中国のトッププレイヤーに対しても、日本国民が正当な評価、注意、敬意を払わねばないのである。観光に来た中国人のマナーだけを問題にしたり、中国製品に偏見だけでものを言ったりしてはいけないのである。そのことが中国という相手への正確な認識を誤らせ、日本を危うくするのである。

  

今後の課題

私としては、日本が世界に対峙することになった明治時代、特に福澤諭吉の読み直しから始めてみたいと思う。また、溝口雄三氏の本などの本をまとめないといけない。

・京都学派の「世界史の理論」「近代の超克」などの見直し

石橋湛山の中国論の見直し

なども日程に挙げておきたい。

また、半導体産業の産業競争力がなぜ衰退したかなども知りたい。ここら辺は学生時代には興味をもてなかったが、社会人となってから、興味関心が湧いてきた分野だ。底辺の生活の中にも、進歩があると信じたい。

 

それにしても即位式の際の各国招待客の複雑な利害関係を考えると、天皇陛下のご苦労が偲ばれる。

 

以上、ひとまず感想を締めくくりたい。

 

最後に

わが日本が挟まれる米中両国の「覇権」を憂慮するよりも、自分の「派遣社員」ぶりを心配してたらいいのではないかという声が聞こえてきそうだが。どうかハニートラップの対象となるくらい偉くなれますように!(無理だけど)。そして、藤原紀香似のファンファン(芳芳)に狙われますように(笑)。

 

もうすぐ発売される『表現者クライテリオン』の特集は「抗中論」である。

 

さてどのような論調になっているのだろうか楽しみだ。

 

 

 

 

 

米中衝突ないしは覇権争い過去記事:

 

book-zazen.hatenablog.com

 

 

 

 「覇権」についての過去記事:

 

book-zazen.hatenablog.com

 

私の問題意識の一端については:

 

 

book-zazen.hatenablog.com

 

 明治時代ないし福澤諭吉から始めることについては

 

 

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