「北朝鮮よりもずっと重大な世界秩序問題」とは?ー中西輝政氏『アメリカ帝国衰亡論・序説』 その2
前回に引き続き、本書の内容を架空のインタビュー形式に直して、紹介しております。
(赤字・強調などは紹介者が行いました。)
(つづき)
ー前回までで本書の目的を語っていただきましたが、今回は各章の内容を具体的に語っていただけるでしょうか。
著者:分かりました。
まず、米中の覇権争いという観点から見て、尖閣諸島の問題と韓国の問題があります。2017年2月に、日米首脳会談で「尖閣諸島に日米安保条約第五条が適用される」と言ったからといって、トランプを「親日」などと思ってはいけません。その背後にある経済的見返りの大きさを考慮してください。また、第五条には「日本の施政下にある領域」とあることにも注意してください。
ー尖閣諸島は、竹島と異なり、日本の施政下にあると思うのですが?
著者:尖閣諸島周辺の領海及び接続水域に、中国の公船が入ってきている日数と、その時間、総数、総排水トン水、周辺での漁業など経済活動の実行例や船舶の種類を漁船を含めて集計して見て下さい。
ーそうすると、どうなるのですか?
著者:もし国際司法裁判所に提訴した時、日本と中国とで、どちらの国の船舶のプレゼンスが多いのかによって、実効支配しているのかどうかか判断されます。
ーえっ!?そうなのですか?
著者:これでは「日本の施政下にある領域」といっても、簡単ではないということが分かるでしょう。
尖閣諸島を足掛かりにして、中国は、太平洋をアメリカと分割する可能性があるのです。これが「新型大国関係」です。彼らの間の「Win-Win」を狙った関係です。米中首脳会談でも、米中がのそのような関係について話し合いがなされたのではないかと推測しています。
南シナ海のスカボロー礁での中国の動きに対して、アメリカがどう出るのでしょうか。これこそが「北朝鮮よりもずっと重大な世界秩序問題」なのです(52頁)。
ー繰り返しておられる「世界秩序問題」ですね。なるほどー。
著者:この観点から朝鮮半島問題を見ると、THAADミサイル配置をめぐって、アメリカと中国のどちらが韓国を支配しているかという問題であり、米中の覇権争いなのです。その結果として、対馬海峡が、38度線になる可能性があるのです。
ー覇権争いですね。
著者:これこそが世界秩序問題から見た、朝鮮半島の問題なのです(「衰亡のシナリオ1 北朝鮮危機に隠されたトランプ・アメリカに「悪あがき」)。
ーそれでは、アメリカはどうなるのでしょうか?
著者:私は以前から冷戦後のアメリカ一極支配は、世界の不安定要因だと考えて来ました。これは世界史から見てのことです(60頁)。
アメリカ人は冷戦の勝利に舞い上がり、大きな間違いを犯しました。
①湾岸戦争で中東の秩序を破壊し、逆に反米・反西側のテロを蔓延させてしまった。
②ロシアの民主的な改革を挫折させ、プーチン登場の露払いをしてしまったこと。
③中国を軍事覇権国家にしたこと。
ー中国を軍事覇権国家にしたというのは、どういうことでしょうか?
著者:ニクソン以来の共和党政権は、常に中国を強大化することに貢献してきました。ソ連と比較して見て下さい。
ーえっ!そうですか?
著者:当時、米中軍事交流を担当していた中国専門家マイケル・ピルズベリーは、『China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』(日経BP社、2015年)で、アメリカの法律で禁止されていた軍事技術を対外移転したと告白しています。
実は対中タカ派に見えたレーガン政権こそ、「隠れ親中派」だったと言っていいでしょう(67頁)。
ニクソン、キッシンジャー時代から、アメリカ共和党がいかに中国よりであったかということは、歴史が証明しています。トランプ政権においても、我々日本人はその点を警戒すべきなのです。
ーそんな時代のことがいまにつながっているのですねー。キッシンジャー。懐かしい名前です。
著者:それでももし、米中の間で従来型の軍事衝突が起きた場合のことお話します。現在のところ、中国海軍はアメリカにはかないません。ただ、サイバー戦はアメリカと互角以上でしょう(73頁)。
現在の中国は高いミサイル攻撃能力を持っているので、米軍は第一列島線から退避する可能性があります。そうなると自衛隊を除くと、日本列島が無防備状態になる可能性があります(73頁)。だから、トランプ時代の我が国の最大の課題は、「核の傘」を除いて、「自主防衛力の画期的向上」です(74頁)。
ー経済の問題についてはどうですか?
著者:自由な市場経済こそ普遍的な価値観だと唱えていたアメリカの大企業が、トランプ政権の指令経済(「コマンド・エコノミー」)に敗北している。アメリカの自由も落ちたものです(77頁)。
トヨタにも圧力をかけているのですから、日本政府は「日本企業ひいてはわが国の国益を侵しては困る」と抗議すべきでしょう(77頁)。トランプにすり寄ると、あとで経済的な損失を被るでしょう。
とはいえ、トランプの登場により、マッカーサー以来アメリカの民主義に対してコンプレックスを抱いてきた日本人が、自立できるチャンスが来たと思います。その際に必要なことは、自立心と防衛力の飛躍的な強化です(79頁)。
(「衰亡のシナリオ2 トランプで加速する、アメリカ自滅の「三つの大罪」」)
ーなるほど。私は米中国交正常化など、自分の生まれる前の昔の出来事ぐらいに考えておりました。もちろんそのとき台湾を孤立さえることになったことなどは知っていましたが・・・。その時の態度が勉強になるのですね。
またキッシンジャーの我が国に対する考えを正確に知りたいと考えて来ましたが、その機会がなく、今回あらためて自分の不勉強を思い知らされました。今後は洋書などを含めてしっかり把握して行きたいと思いました。
またアメリカ共和党と中国との関係について興味深いと思いました。その点も注視して行きたいと思います。次回もどうぞよろしくお願い致します。
(その3に続く)