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書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。日本でのアニマルウェルフェアの推進に賛成します。

適塾の塾生の子孫ー跡見裕氏 日経・夕刊 平成30年11月5日(月)~11月9日(金)

適塾の塾生の子孫ー跡見裕氏 日経・夕刊 平成30年11月5日(月)~11月9日(金)

日経を購読していて良いと思う所は、経済ニュースのみならず、現在活躍している人物の人となりや経歴を知ることができる記事が掲載されていることである。

 

一冊の本として公刊されるほどではなくとも、興味深い記事が存在する。夕刊の文化欄に連載されている「こころの玉手箱」から記事を紹介する。

 

それは杏林大学名誉学長の跡見裕(あとみ ゆたか)氏の記事である。

 

跡見氏は、40年間医師として生活し、2010年に杏林大学の学長、2018年4月から名誉学長となった人物である。

 

それだけなら、それほど興味がないのだが、記事をよく読むと、跡見氏は重要な文化の結節点に生まれた人物だということが分かる。

 

まず氏は、適塾出身の蘭学医・跡見玄山から四代目の子孫にあたる人物である。

常日頃から幕末から明治時代の人物に憧れを抱いている私にとって興味深い人物である。勘違いしないでいただきたいが、子孫であればそれだけで興味がある訳ではないし、四代も前の御先祖様と精神を一にしていることなど稀であろう。とはいえ、稀にこの環境でしか生まれないとも思える人物がいるのである。

 

適塾というのは緒方洪庵(おがた こうあん)が大阪に開いた蘭学塾のことで、福澤諭吉岩波文庫所収『福翁自伝』に詳しい)、大村益次郎(長州出身。軍略家で、上野戦争を平定し、靖国神社の参道に像がある人物。司馬遼太郎の『花神』のその生涯が描かれている。晩年には西園寺公望との交友もあったが、京都で殺害された。)、橋本左内安政の大獄で刑死)、手塚良庵手塚治虫の先祖!!!!手塚治虫自身も医師だった。)など他多数の(昔買った適塾の冊子が手元にないからあまり書けないが(笑))人物を輩出したのである。

 

 

跡見氏の父が名古屋近郊で外科医をしていた関係で、跡見氏も愛知県で生まれた(1944年)。大学は東京大学の理科Ⅲ類に進学し、卒業後は東大医学部第一外科に入局したという。医師の職業人生にも興味があるのだが、私が興味を引かれたのは氏が学生時代に生活した「和敬塾」のことである。

 

リンク:和敬塾HP

和敬塾 | 東京・目白の男子大学生寮

 

1963年に大学に入学した跡見氏は、東京目白にある和敬塾という学生寮に入寮したという(11月7日の記事より)。和敬塾は、前川製作所前川喜平氏が設立した学生寮である。私が和敬塾の名を知ったのは、大森曹玄翁のことをネット検索で調べていた時のことである。曹玄翁が講演したのは昭和55年だから、跡見氏がいたと思われる昭和30年代とはことなるが、その時代には湯川秀樹氏や安岡正篤氏の講演があったと記録されている。

 

リンク:大森曹玄翁の昭和55年の講演ライブラリー

和敬塾 講演会ライブラリー

 

私は東京で学生生活を送った訳ではないし、学生寮にも入ったことはない。和敬塾のような学生寮で大学時代を過ごすことができた学生がうらやましい。もう手に入らない時間と経験。

 

医師としての跡見氏について私に言えることはないのだが、興味深いエピソードとしては、昭和天皇の治療チームに参加したことであろう。

 

東大の第一外科に入局した跡見氏は、恩師の森岡恭彦氏に出会う。森岡氏は昭和天皇の執刀を担当した医師であった関係上、跡見氏もその医療チームに加わったという。

 

昭和天皇の体温が下がらないことを心配した跡見氏は、いつものくせで「考えながら腕を組みそうに」なったという(11月8日の記事より)。文脈から考えると、昭和天皇の治療中だったと思われ、その横で腕を組むという態度が良くないと考えたということだろうか。このようなことを誰に言われずとも自分で行わない態度は、単に文化的に恵まれた家系に生まれただけではできないことであるが、文化的な育ちの良さを感じさせる行いであると私は感じる。

 

 

跡見裕氏は、適塾の塾生であった祖先から四代目にあたる医師であり、学生時代和敬塾で過ごした人物である。もうすでに70代中ごろであろうか。写真では元気そうであるが、11月9日の夕刊の追想録には京都にある村田製作所の村田泰隆氏が71歳で亡くなったとの記事が出ていた。

 

跡見氏のような学統や態度を継承する若手~中堅の人物が育っているのだろうか。まあ私が心配する話ではないが、興味を持った記事であった。

 

それぞれ途中までしか読めないが、参考にしてください。

r.nikkei.com

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