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書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。

最近気になる人ー映画監督・演出家・押井守氏ー令和元年6月9日(日)

最近気になる人ー映画監督・演出家・押井守氏ー令和元年6月9日(日)

 

「私はナショナリストでも右翼でもないけれども、自分のアイデンティティに「日本」が入りこんでいることも感じています」(『Voice』平成30年9月号、132頁)

 

昨年の論壇誌の記事で恐縮であるが、気になっていたので書き残しておく。

 

押井守氏の名前は当然知っていた。アニメ作品の関係者と思っていた。『機動警察パトレイバー』、『GOHST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などを監督したという。

 

その押井氏のインタビューが『Voice』という月刊誌に掲載されていたので、読んでいた。

 

記事では、押井氏が「国際リニアコライダー(ILC)」を誘致するサポーターという組織の発起人になった動機や経緯などが語られている。

表現者としての自己に集中するために、社会運動には関与しないという立場を貫いてきた氏であったが、近未来を舞台にした作品を作ってきた者として日本社会に恩返ししようと思い、ILCの誘致に参加することに決めたという。活動の結果、大友克洋氏のような漫画家も賛同してくれたという。

 

押井氏は、実利ばかり追い求める現代日本に、何の役に立つのか分からないプロジェクトを追いかける夢の大切さを語る。

 

その原動力となったのが、冒頭の発言にあった日本人としてのアイデンティティなのである。

 

宇宙の事であれば、別に日本人である自分にこだわる必要はないだろうし、またそのような観点から反論されそうではあるが、氏は日本人としての自分と宇宙や世界(招致が成功すると、そのまわりに外国からの研究者・関係者のコミュニティができる)を結びつけている点で、私好みの人である。

 

「伝統は非合理的な側面もありますが、昔から紡がれ、守られてきたことには、役に立つか否かを超えて「四の五のいわずに従うこと」自体に何かしらの意味や価値がある。若いうちはまったく気付きませんでしたが、この歳になってそれを実感しています」(133頁)

 

世界的な映画監督なのに西部邁氏の著作に共感するなどの点で、世界的に成功する日本人によくある、日本や日本人を見下す発言をする態度とは、一線を画する。

 

大学で「日本○○」の教授と名乗っていても、日本や日本人の背負って来た運命や歴史に対する敬意を感じない人がいる。一方で、タツノコプロ出身の押井氏が、多彩な才能から、バランスの取れている発言を行う。権威を信用してはいけないのである。たとえ「日本○○」の教授と名乗っていても。

 

最近気になる人、押井守氏。エッセイや評論の本も出しているようだから、これから読んで見よう。私の本棚が、一層多様になっていくだろう。

 

本離れ、出版不況など、どこの世界の話だろうか。人生で本だけが増えていく。