Book Zazen

書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。

気になった本ー牧野邦昭氏・著『経済学者たちの日米開戦』(新潮社)

未読であるが、気になった本を紹介したい。

 

日経新聞の2018年7月21日(土)の25面読書欄「この一冊」に井上寿一氏の書評は牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦』(新潮社)であった。

 

 

昭和14年(1939)、陸軍の秋丸次朗中佐が組織した秋丸機関に、当時の経済学者らが集い、日米開戦についての研究をしたという。

 

報告によれば「確実な敗北」と「万一の僥倖」による勝利というシナリオがあったという。そのことが両論併記されていたという。

*僥倖(ぎょうこう)とは、幸運のこと。

 

秋丸機関が提示すべきであったプランを提示している点でも、本書は注目に値するという。そのプランとは「三年後でもアメリカと勝負できる国力と戦力を日本が保持できるプラン」であり、そのことにより日米開戦が避けられたという議論である。

 

評者の井上氏は、そのようなプランを選べば、戦争は回避できるが、戦前の体制も残るという問題点があるという。一方、万が一勝てる見込みを選択したら、実際の歴史のように「想像を絶する戦禍」に見舞われるが、その代わり「平和と民主主義が訪れる」という。そしてそのことが我々一人ひとりが考えるべき問題であると結ぶ。

 

未読の段階であるが、「総力戦研究所」が日米開戦の結果をシュミュレートしていた猪瀬直樹氏の著作『昭和16年夏の敗戦』(世界文化社、1983年 。⇒私が持っているのは中央公論新社、2010年のもの)のようなものかと思った。日本が敗戦に至るいくつかのシュミレーションが当時存在していたことが分かる。

 

 

著者の牧野氏には、中公叢書の一冊として『戦時下の経済学者』(中央公論新社、2010年)、「評伝・日本の経済思想」の一冊として『評伝・柴田敬』(日本経済評論社、2015年)の単著があるということである。

 

柴田敬氏と言えば、室田武氏の著作『物質循環のエコロジー晃洋書房、2001年)で経済学領域の学者でありことを知っていたし、公職追放となった京都大学の教授であったこと、資本主義とエコロジーについて先駆的な業績があることなどが書かれてあったことを読んだことはあった。その名前に興味はあったのだが、詳しく調べる時間もなく、そのままにしていてた。

 

著者の牧野氏は1977年の生まれということなので、学者としては中堅といったところだろう。まだ読んだわけではないから、何とも言えないが、この年代の学者が、柴田敬氏のような学者に興味を示すこともおもしろい。専攻は、「近代日本経済思想史」とのこと。

 

評者の井上氏が、「戦前体制」を戦争突入時の体制に代表させるようなイメージで書いている点に違和感がある。「戦前」といっても明治時代から大東亜戦争敗北まで、明治以降の体制のもとでもさまざまな時代相がありえたのだから、戦争突入時や戦時中の日本を「戦前体制」として代表させ、戦後と対比させるべきなのだろうか。

 

さらに、「想像を絶する戦禍に見舞われる。その代わり戦後は平和と民主主義が訪れる」というが、明治以降、外国の文化文物に触れつつも、自国の文化を基礎にして、よりよい制度や仕組みをつくり上げていこうと志ざしていた人々が少しずつ改良していった可能性を無視している点で違和感が残る二者択一である。

 

私はその二者択一で物事を考えたくない。

 

 

 

経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く (新潮選書)

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