ブラック・ムスリム運動の指導者ルイス・ファラカーン氏、Facebookのアカウント停止ー令和元年5月4日(土)晴れ
ブラック・ムスリム運動の指導者ルイス・ファラカーン氏、Facebookのアカウント停止ー令和元年5月4日(土)晴れ
今朝の日経(3面総合欄2)を読んでいたら、フェイスブックが「過激主義者」を排除という記事が目に着いた。
日経(外部リンク):https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44415900T00C19A5EA4000/
「過激主義者」というのは、主として「極右思想」や「反ユダヤ主義」ということだそうだ。「またいつもの感じか。左派は過激でも含まれないのか」と思っていたら、「インフォウォーズ」のアレックス・ジョーンズや「新極右」とされるポール・ジョセフ・ワトソンと並んで、「アフリカ系アメリカ人によるイスラム運動組織を率いるルイス・ファラカーン氏」もフェイスブック社のSNSから排除されるという。
最近のアメリカのこういう言論家は、トランプの元側近スティーブ・バノンしか知らなかったが、雨後のたけのこのようにたくさんいるのだなと思ったのと、ルイス・ファラカーンが含まれていることに興味を感じた。
ルイス・ファラカーンを知っている日本人は、ほんのわずかだろう。かく言う私も、詳しくは知らない。アフリカ系アメリカ人のイスラム系組織「ネイション・オブ・イスラム」の指導者ということぐらいだ。ただ、彼はHip HopカルチャーやRapに影響を与えている人物でもあると言えば、今の若い人でも興味を持つだろう。ネイション・オブ・イスラムのサイトを訪れると、ラッパーのニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)とも関係があるようだ(どういう関係か調べるのは、私にとってこれからの課題だが・・)私はこのラッパーを知らなかったが、自分の出身母体たるコミュニティーのリーダーとも見られていたようだ。だが、自分の店の前で銃撃され、若くして亡くなったとのこと。アメリカは本当に銃撃で、才能ある人も容赦なく亡くなることがあるなー。
そもそも私がルイス・ファラカーンを知ったのは、アメリカのラップ・グループPublic Enemyの曲(とっていも歌詞の意味はあまり分かっていなかったが、断片的にという意味)やライナーノーツ、それに映画やドラマや雑誌の情報からだったと記憶する。
Public Enemyのアルバム"IT TAKES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK"の最初の曲"BRING THE NOISE"の0:46あたりに「ファラカーンの預言」という言葉が登場する(これがルイス・ファラカーンのことかどうか不明だが)。
これはロックバンド・アンスラックスとの共演ヴァージョンで、かなり聴き取りにくが・・。
Anthrax with Public Enemy - Bring The Noise
二番目の曲"DON'T BELIEVE THE HYPE"にも1:16に"the follower of Farrakhan"という語が見える。この "Farrakhan"がルイス・ファラカーンのことなのか確実とは言えないが、誰か知らないだろうか。
Public Enemy - Don't believe the hype - with lyrics
ネット検索して見ると、映像作家のMik Moore(マイケル・ムーアとは別人だと思う)が、チャックDにルイス・ファラカーンを紹介してもらった話を海外のサイトMediumに記事を書いている。自身がユダヤ人コミュニティに属する人物のようだ。その中で十代の頃、"BRING THE NOISE"の同じ箇所を聴いて、ファラカーンのことが知りたくなったと書いているから、歌詞に登場する「ファラカーン」は、ルイス・ファラカーンと考えて大丈夫だろう。また「反ユダヤ主義」の問題にも触れている。
(外部リンク)Medium:Mike Moore「Farrakhan and the Cycle of Stupidity」
https://medium.com/@mikrmoore/farrakhan-and-the-cycle-of-stupidity-3b73cd924440
ライナーノーツ(アルバムについているアーティストや歌詞についての解説冊子)にも、「リーダーとして多大な才覚を発揮するチャックD」、「ヤバさも漂うB級コメディアン的なキャラクターで勝負するフレイヴァー・フレイヴ」と並び、「ネイション・オヴ・イスラムの思想にどっぷり浸かり、TVでユダヤ人批判発言をぶちかますなどの急進的な行動で波紋を呼び起こしたプロフェッサー・グリフ(現在は脱退)」と書かれている(ライナーノーツの著者は印南敦史氏と思わる)。
どうでもいいことだが、フレイヴァー・フレイヴを初めて見た時、プロレスの獣神サンダー・ライガーを見た時ぐらいの衝撃があったぞ(笑)。
わが国では、一部の黒人文化好きや映画・ドラマなどでしかこのネイション・オブ・イスラムのようなブラック・ムスリムの運動は知られていない。
私も断片的な情報ながら、ブラックムスリムの運動を知っていたおかげで、9・11以後のイスラム=テロリストなどというイメージに毒されずに済んだ。本当に余裕で毒されなかった。なぜなら、ブラック・ムスリムは刑務所でも規律正しく暮らしているイメージがあり、厳格主義的なイメージがあったからである。
副島隆彦氏の『現代アメリカ政治思想の大研究』(筑摩書房、1995年)は、「黒人イスラム勢力の動向」と題して、この運動に一章分を割いている。正しいことだと思う。
キング牧師の正統な継承者としてジェシィ・ジャクソンを挙げ、共闘関係にある人物として「ネイション・オブ・イスラム」のルイス・ファラカーンを挙げている。
「このイスラム教徒黒人団体である「ザ・ネイション・オブ・イスラム」The Nation of Islamについては、1993年の映画『マルコムX』Malcolm X(スパイク・リー監督)を見た人ならばある程度は知っていると思うが、今や黒人政治勢力として、アメリカで最大のものとなっている」(223頁)。
彼らの行動について、副島氏は次のように語る。
「ザ・ネイション・オブ・イスラム(略称'ネイション'Nation)は、まじめなイスラム教徒(中略)の団体であるから、黒人社会に規律・規範を与えるという面で重要な意味をもつ」(223頁)
刑務所のドラマのイメージとも合致する。とはいえ、「反ユダヤ主義」的な態度があることも指摘する。
「ザ・ネイション・オブ・イスラムの黒人イスラム教徒は、白人層全体に対して、自分たちの生活の分離独立を唱える一方で、中東のアラブ・イスラム世界とユダヤ・イスラエルの宗教対立を背景にして、反ユダヤ的な態度を見せる」(223頁)。
日経の記事には、「極右」の話に重心があり(というほど詳し記事ではないが)、ルイス・ファラカーンの排除理由は直接には書かれていない。だが、記事冒頭の「反ユダヤ主義」の問題に関連しているのかも知れない。
【これからの課題】
いずれにせよ、私が記者なら、
・ルイス・ファラカーンの著作や映像を速効で取り寄せ、
・マルコムXなどスパイク・リーの映画を見直し、
・コーネル・ウェストなどの人種問題にも言及する思想家の著作を参照し、
・ラップやドラマの中に現れる、ブラックムスリムの思想やスタイルを解説し、
・それが我々日本の問題に波及する効果を指摘するだろう。例えば、他のマイノリティに対するマイノリティの運動による表現の問題など。
9時から書いてもう二時間半も経ってしまった。こういう話題なら時間を経つのを忘れる。こういう仕事がしたかった。まだ足りない部分はこれから補ったらよいじゃないか。
本職の人たちは、読者が知りたいことを本当に書いているのだろうか。自分自身の中にこういう問題に対する興味が本当にあるのだろうか。これまでの人生の中で、思想問題に本当に興味関心があったのだろうか。
恵まれた研究環境・発信媒体・蔵書・待遇など、うらやましい。
生計を立てて行くために、多くの時間を費やさざるを得ないから、GWが終われば記事を書く時間も、調査にあてる時間も、極端に少なくなる。
しかも住居スペースや支出対象を考慮すれば、本職ではなく、収入につながらないものを買い続けることはできない。本当にいま活躍している人たちが、大事なことを考えているのだろうか。
追記:中東情勢などに詳しい国際政治学者の高橋和夫氏が2008年6月12日から
「アメリカのイスラム:マルコムXの旅」という記事を4回に渡って書いているので、チェックして見て下さい。
また、本文でも紹介した副島隆彦氏関連のサイトで「アメリカ/ブラック・ムスリムの蠢動(しゅんどう)~マルコムXとルイス・ファラカン~ 山田宏哉(やまだひろや)筆 2009年4月14日」という記事が読めることを付記しておきます。