大人になった今読むー渋沢栄一『論語と算盤』(角川文庫、平成20年)★★★★★
大人になった今読むー渋沢栄一『論語と算盤』(角川文庫、平成20年)★★★★★
「仮令自分はモット大きなことをする人間だと自信していても、その大きなことは片々たる小さなことの集積したものであるからどんな場合も軽蔑することなく、勤勉に忠実に誠意を籠めてその一事を完全にし遂げようとしなければならぬ」(渋沢・上掲書、72頁)
仮令・・・たとい。
渋沢栄一の名を知ったのは、やはり呉智英氏の著作だったと思う。
呉氏は論語を危険な思想を説いた書であるとする立場から、通俗的な論語理解や世間の常識を押しつけるような論語の持ち出し方を批判しているのだが、渋沢を批判するのかと思いきや、「毒を薬に変えようとした者だけが、毒はあくまでも毒であることを知っている」(『サルの正義』双葉社、1993年、134頁)と評している。
その時は、危険な方に魅了されている自分だった。経済が切実な問題ではなかったからだ。でも今はどうだ。安全な収入のある方を選んでいる。選んでしまっている。
それはなぜか。渋沢の言うように、「武士的精神のみに偏して商才というものがなければ、経済の上から自滅を招くようになる」(23頁)ような現実を生きているからである。
生計を立てることの苦労、割り当てられた仕事の平凡さに耐えられない毎日。武士が「武士の商法」で滅んで行った時代、かつての大名家でも生活の苦しさを味わった時代、道徳と経済の両立ができた渋沢栄一の本を通勤電車の中で読む。子供のときには分からなかった味。
割り当てられた仕事のくだらなさを慰め、自分を戒めるかのように読む。
我慢の足りない自分。人間の出来ていない自分。でも本当に俺が悪いのか?という気持ちもある。
自分のやりたいことをやって死んでいきたい。
1度きりの人生。
こんな仕事を続けるのか。自問する時間もない毎日。
そうこうする間に年ばかり取る。
なんのための人生なのか考えろ。
こんなことをするために生まれてきたのか真剣に考えろ。
自分を救ってくれ。
年末がせめてもの救い。
自分を見直し、掘り下げよう。