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書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。

大石久和・藤井聡編『歴史の謎はインフラで解けるー教養としての土木学』(産経新聞出版、平成30年)

大石久和・藤井聡編『歴史の謎はインフラで解けるー教養としての土木学』(産経新聞出版、平成30年)

 

中国の古典『淮南子』(えなんじ)に土木の本義を確認し、ローマの歴史からインフラ(「インフラストラクチャー」の略で、経済活動の基礎となる道路、鉄道、上下水道、港などの公共設備のこと)の重要性を探り、我が国の歴史的な出来事が成就した陰には、インフラの整備や発展が欠かせない条件となっていたことを説く。

 

歴史の部分は本書を読まれる方の楽しみとして、本記事では第六章を紹介する。

 

第六章「日本の未来と土木」

最初に、「世界中の国々が公共インフラ投資を進める中、日本一国が土木によるインフラ投資をスローダウンさせていったことで、日本の成長力が大幅に低下し、日本の国力が激しく凋落し続けている」、「インフラ投資のスローダウンは、日本の国土構造に大大きな変化をもたらしている」(172頁)と述べた後、図表やグラフを示し、東京の一極集中はインフラ投資の面でも裏付けられていると主張する。

 

戦後、国土を偏りなく発展させる方針であったが、まず都市部のインフラ投資を進め、地方が順番を待っている内に、インフラ投資の予算自体が削られ、都市と地方のインフラ格差が決定的になった。

土木には、それを行うことで資金が流れるフロー効果と、できあがったインフラが活用されることでもたらされるストック効果の両方があり。

また、災害の被害拡大を抑制するには、土木事業が欠かせない。

さらに、都市と地方、地方と地方の行き来のしやすさを向上させ三大都市圏を結ぶリニア新幹線や本州と北海道を結ぶ第二青函トンネルなどの事業をすることで、一体感を醸成し、アクセス性を向上させることが重要だ。

 

以上が、骨子である。この章は藤井氏年来の主張である。

これが大石氏のいう「歴史土木学」(土木学と歴史学との結びつき)という観点から、述べられているのが本書の特徴である。

 

市民派」による公共事業批判、国土強靭化批判、「コンクリートから人へ」などのスローガンによる批判に勝ち抜いていけるかが問題である。

 

以前にも書いたが、私の子供の頃からのイメージとして、土木、公共事業など常に批判的なイメージで語られることが多かったし、実際私もそのような論調が正しいと思って、土木のことが好きになれなかった。「土建国家」、「道路族」、「ゼネコン」など古い自民党政治そのもので、子供の頃に好きになることはできなかった。

 

藤井氏の活躍を見て、土木や公共事業の重要性を知るようになったし、新幹線など戦後史の大きな出来事の意味も理解できるようになったと思う。

 

*とはいえ、森村進リバタリアン自由至上主義)思想を紹介ないしは展開した『自由はどこまで可能か』(講談社現代新書、2001年)で書いているような公共事業に対する批判的見解について考察するのを忘れてはいけないと考える。

「政府が公共事業に投資したり補助金を出すためには、税金が必要である。納税者はその税金を取られた分だけ支出が減る。公共投資とは、その課税がなかったら納税者が自分のニーズに応じて行う消費や投資の代わりに、もうからない事業に政府が資金をつぎ込むことである。その結果富の総額は、公共投資がなかった場合よりも減少する。しかし多くの人々は公共事業から得られる見える利益に目を奪われて、それがなかったら得られたはずの、もっと大きな見えない利益を想像できない。ありは公共事業から利益を受ける特定の集団がその事業の実施のために圧力をかける」(165-166頁)。

 

「もっと大きな利益」というものが具体的に何を指すのか分からないが、公共事業を批判する論者は数多くいるだろう。

 

 

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本書は、大石久和氏(1945年生まれ。京大工学研究科修了。建設省に入省。専攻・国土学)をはじめ、石田東生氏(東大工学博士。筑波大学大学院システム情報工学研究科教授)、越智繁雄氏(建設省入省。河川情報センター業務執行理事)、佐々木正氏(酷区土技術研究センター 首席研究員)、戸矢有一氏(建設省入省、マネジメントシステム評価センター取締役)、吉崎収氏(日本橋梁建設協会副会長・専務理事。建設省入省)など、おおむね現在の国土交通省出身で、現在は再就職か「天下り」(批判している訳ではない。私は有意義な天下りは当然存在すると考えているので。)しているような年齢の方々により執筆されている。執筆分担は、巻末に付されているが、入り組んでおり、どこの部分を誰が執筆したのか調べるのが煩わしいことが難点である。一般向けの本だから、それでいいのかも知れない。

 

国史、世界史学習の補強にも使う事が出来、塩野七生氏の『ローマ人の物語』は全15巻もあるから、どこから読み始めようか迷う人もいるだろう。本書72頁によれば、10巻でローマのインフラの問題を扱っているという。そこから読んでみるのもいいかも知れない。また琵琶湖疎水など、実際の土木遺産を見学しに行ってもよいだろう。

 

私としては、明治時代の伊藤博文らとイギリスにわたり近代土木技術を学んできた井上勝の名を知ったことが収穫であった。

 

ちなみにこの記事は何の第一人者でもなく、人様に誇れるような職歴もなく、老後になる前に野垂れ死にしそうな私(低空飛行研究所。主席研究員(笑)。専攻・後ろ向きな言葉を吐くこと。)によって作成されました。

 

ちょっくらジムにでも行ってきます。またねー。