Book Zazen

書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。

アメリカに対する「位い負け」ー中西輝政氏『アメリカ帝国衰亡論・序説』その3

(つづき)

*本記事は、中西輝政氏『アメリカ帝国衰亡論・序説』を架空のインタビュー形式に直して紹介しております。(強調・赤字など紹介者による)

 

ー今回は、日本人にとってアメリカがどういう国かを論じる訳ですが・・・。

著者:私は日本人がアメリカ人に対して、「位い負け」していると思います。この傾向はすでに第一次世界大戦後に始まっていたと見ます(85頁)。

我が国にはたくさんの「アメリカ研究者」がいますが、これらの識者は細部に詳しくても、大きな視点からアメリカを位置づけることができていませんし、日本のリーダーたちも「アメリカ・コンプレックス」があり、我が国の国益を見る目が曇っています(91頁)。

 

ートランプについてはどうですか?

著者:トランプの「孤立主義」は、かつての理想主義に立脚したアメリカの建国以来の「孤立主義」や「対外不介入政策」とは似て非なるものです。そこには、「アメリカは世界が見習う平和の使徒となろう」という理想主義がありません(95頁)。現在「孤立主義」は相手を貶(おとし)める言葉として用いられますが、「孤立主義」自体は悪いこととは言えません。トランプの場合は「ネオ孤立主義」とでも名付けておくべきでしょう。

 

ー確かに「孤立主義」=悪みたいな形の言い方が存在しますね。中身を吟味しているのかどうか分かりませんが、レッテル貼りすることについては反感を覚えますが、逆に「ネオ孤立主義」を評価する気にもなれません。

著者:私の学問の大きなテーマなのですが、アメリカ歴史を概観し、いま起こっていることを考察すると、コロンブス以来のアメリカが大きく変わると言ってよいと思います(99頁)。

ここで一つの本を紹介しましょう。C.デール・ワトソンが書いた『二十一世紀における地政学と大国』(C.Dale Watson, Geopolitics and the Great powers in the 21st Century, 2007 未邦訳)です。著者は、最先端の地政学者です。

この本の中では、世界が500年ぶりに海洋国家優位から大陸国家優位の時代へと転換していることが論じられています。

これからの時代は「多極化」に向かいます。目の前の世界情勢のみならず、文明史上の構造転換を長期的に見ても明らかであると思います(99頁)。

 (「衰亡のシナリオ3 トランプの孤立主義は建国の理念を裏切る」

 

アメリ一極支配から多極化ですね。2007年の本が未邦訳ということですが、いつかそういった本を翻訳する実力が欲しいものです。本当はもうできていないといけないですが・・。アメリカの階級や差別を扱った「衰亡のシナリオ4」については、他に適当な論者や研究もあるかと思いますので、失礼ながら割愛させていただきます。先生はアメリカ主導のグローバリゼーションが世界を席巻したことはどうお考えでしょうか。

著者:現在のアメリカが覇権を失いつつあるのは、冷戦後、アメリカ一極支配の時に始まっていたと思います。

 この点についてはようやくアメリカの主流派の政治学者も認めています。その例として2016年に出版されたマイケル・マンデルバウム『失敗した指名:冷戦後時代のアメリカと世界』(未邦訳)があります(144頁)。

 冷戦後、世界の問題をアメリカが解決しようと介入していったことで、国力が落ち、反米が蔓延することになったのです。

 マンデルバウムも、アメリカの現状について、国益に関係のない辺境の土地に介入を繰り返した結果だという見解です(147頁)。

 帝国が衰退するのは、イギリスの歴史学者でイェール大学教授のポール・ケネディ『大国の興亡』でも述べているように、国益もない地域に介入し続けることが理由なのです(146頁)。

 このような見方のベースとなるのは、ローマの歴史です。ローマの歴史の重要性は、今日においても変わりません。ケンブリッジ大学の教授メアリー・ビアードの書いたSPQR 古代ローマの歴史』(2015年。本書の出版時には未邦訳➝2018年5月に邦訳が出版された模様)もベストセラーになったことは前に触れました(100頁)。

 

ーローマの歴史が重要なのですね。私の学んだ思想や哲学の方面では、ローマよりその前のギリシアの方が存在感があります。ローマは実用的な文化というイメージがあります。とはいえキケロなど大人の教養として読むべき本がありますね。我が国で言えば、中国の古典のような位置にあるのでしょうか。

 著者:話の続きですが、アメリカが大英帝国中華帝国と異なるのは、その建国の理想の違いにあります。そもそもアメリカは、イギリスから独立して出来た国です。したがって、公然と植民地をもつことは建国の理念に反するのです(149頁)。

 たしかにフィリピンやプエルトリコなどを植民地にし、ハワイも武力で併合しました。しかしアメリカはそれらの国を植民地ではなく「アメリカ化」しようとしました。

アメリカ化」できなかたフィリピンは独立し、それができたハワイは「アメリカの一部」になりました。独立国だったハワイは反抗をやめて「アメリカ化」されたことで国を失ってしまたのです。今ハワイで独立運動が起きず、侵略されたことを蒸し返さないのは「アメリカ化」されたしまったからです(149頁)。何が言いたいのか分かりますか?

 

ー我が国は、「アメリカ化」されてしまったのか。まだ猶予があるとしたら、「アメリカ化」されてはいけないとおっしゃりたいのですね。同感です。ただ念のため申しますと、ハワイには独立運動をしている人々がいるようです。最近TVドラマ「ハワイ5-0」第7シーズンを見ていて、知りました。逃亡犯が逃げ込み、地元の特別捜査班5-0、連邦保安官が入り乱れるような筋書きでした。そこでインターネットで調べてみますと、それらしき団体がいくつかあるようです。まあ先生のおっしゃりたいのは、スコットランドなど世界の独立運動ほど、大きなものではないということなのでしょう。

 結局、問題は我々日本人がどれだけ「アメリカ化」されているのか。その現状に対して、どうするのかということでしょう。

著者:「アメリカ化」が恐ろしいのは、自分の国が永遠になくなるということです(150頁)。またアメリカは、一度近代化に手を貸した国が自立するのを嫌がるのです。「生徒が卒業することを永遠に許さない教師」(笑)のようなものです(152頁)。その点、私が書いた大英帝国衰亡史』と比べて見てください。あれを書いてからイギリス人には「大英帝国のどこが滅んでいるのか?」と批判されましたが・・・(156頁)。

 

グローバリズムについてもアメリカ主導ならば、地域の独自性や歴史性を認めず、遅れたもの、撤廃されるべきものとする「アメリカ化」が行われていると言えるのではないでしょうか?しかも自分たちで・・・。

著者:アメリカが恐れるのは、アメリカ的な形でグローバル化できない地域が残ることです。我が国独自の文化を守ろうとするようなことは脅威なのです(166頁)。

 日本の企業社会では、グローバリゼーションを「国際化」と同一視し、国際金融を同一化、貿易を自由化、ボーダーレスになり平和を維持するという風に捉えています。もちろんその側面はありますが、アメリカが主導し、文化、生活様式、価値観などを均一化されることまで含むのです(167頁)その本質を見落としています。

「衰亡のシナリオ5 失敗した「アメリカ化」とアメリカ・ファーストの行方」

 

生活様式や価値観のアメリカ主導のグローバリゼーションに対する違和感があっても、なかなかうまく言い表すことができません。未邦訳の本をいくつか紹介してもらいましたので、勉強してみたいと思います(いつになるのか分かりませんが・・・)。

 

(づづく)

 

 

 

 

Mission Failure: America and the World in the Post-Cold War Era

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決定版 大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈上巻〉

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新装版 大英帝国衰亡史

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