Book Zazen

書評を中心に自分の好きなことを詰め込んだブログ、光明を失った人生について書き残しておきます。日本でのアニマルウェルフェアの推進に賛成します。

米中共同覇権を決定的に印象づける1冊ー中西輝政氏『アメリカ帝国衰亡論・序説』

 

 はじめに

 

アメリカ一極支配から米中共同覇権の時代に突入 

 眼前の北朝鮮問題に捉われている間に、もっと深い層で既に進行している国際秩序の変化に目を向けるように警告するのが本書である。

 トランプ就任後、すぐに買って読んだのだが、もう一年ぐらい経過してしまった。北朝鮮との首脳会談という大きな出来事があって再読し、ここに記す。

 

内容

 内容を紹介するにあたっては、未読の方にもおもしろく読めるようにと架空のインタビュー記事風にまとめて、再構成しました。対話的な読書をしているひとつの証拠であると思うので、この形をとって見ました。(以下、棒線(-)部分が私、「著者」は、本を読んで私がまとめた内容である。)

 

―先生よろしくお願い致します。

著者:よろしくお願いします。

 

ーまず初めに、本書を構想されたのはいつ頃でしょうか?

著者:2017年初頭です。

 

ーそのころにトランプ政権が誕生した訳ですが、どのように感じられましたか?

著者:これでいよいよアメリカが衰退期にはいったことが決定づけられたという印象を受けました。これはまさに「アメリカによる平和」(パクス・アメリカーナ)の「終わりの始まり」にあたると思います。

 日本人である私たちが、この事態をどのように考えるべきか。ここまで深い日米同盟を築いた我々は、これからどのようにしてアメリカの衰退に向き合って行くのか考えなければなりません。

 

ー分かりました。それでは内容に移らせてください。この問題に関する基本的な視座を教えてください。

著者:私は常々、国際情勢は三つのレベルで考えよと言ってきました。上層は、ニュースなど日々の情報です。中層はパワーの問題や関係国の力関係、それに国益の基本構造などです。さらにその下の下層にあるのが、帝国主義の趨勢やグローバリゼーションなど長期にわたる世界史的潮流です。上層の論点だけで国際情勢を論じることは、井戸端会議や床屋政談みたいなものなのです(234頁)。

 

 ーそれが国際関係を見る基本的な視点ですね。現在日本人に最も重要な国際問題と言えば、北朝鮮の問題だと思うのですが、先生はどうお考えですが。

著者:北朝鮮危機が重要であることは論を俟たない。でもそれより大事なことは世界秩序の問題なのです。

 まず北朝鮮問題についてですが、3つの可能性があります。①核戦争も含めた武力衝突(斬首作戦など)、②アメリカと北朝鮮の正式な直接交渉、③北朝鮮国内でクーデターが起き、金正恩政権が倒れるという3つのシナリオです。

 私は2017年3月下旬に東京で開かれた保守派の会合で、「北朝鮮への先制攻撃なんてありませんよ」と言ったら、保守派の先生方は驚いていました。アメリカが核保有国を先制攻撃したことなんてないのですよ(27、28頁)。

 右派も左派もセンセーショナルな報道に振り回されて、国際関係の基本構造が読めていません。

 

斬首作戦などは難しいでしょう。ビンラディンを殺害したのとは訳がちがいます。パキスタンは、アメリカが実質的な制空権を握っていたのですが、北朝鮮はそうではないのです。失敗した際のリスクが高すぎます。トランプ政権にとって取りえない作戦です。全土を占領していたイラクNATOがすでに空爆していたリビアともちがう状況です。

 

ーなるほど。北朝鮮に特殊部隊を送り込んで、武力で解決する道は思っている以上に難しいのですね。

著者:情報を見る際にここが重要なのですが、2017年1月に北朝鮮側が、アメリカ本土に届くICBM大陸間弾道ミサイル)が完成直前であると声明を出したときから、アメリカ側が「情報撒布」を始めました(32頁)。情報戦が始まったのです。アメリ国防省お得意の「戦略的コミュニケーション」です。

 

具体例を挙げましょう。アメリカの原子力空母カール・ヴィンソンが北上したとの情報がありました。この空母を中心とした空母打撃群が北朝鮮付近の海域に向かって、急速北上中との情報が、アメリカ太平洋軍から流されました。それを受けて世界中のメディアが報道し、日本でも煽りました。

 

しかしどうでしょう。実際にはカール・ヴィンソンは南太平洋ないしインド洋でオーストラリア軍と演習を行うために南下していたのです(33頁)。対馬海峡に着いたのは、報道があった大分経過してからのことでした。

 

このようなことをイギリスでは「戦略的偽騙情報(ディセプション)」「政治戦争」といい、アメリカでは「戦略的コミュニケーション」と言っています。もっともペンタゴンでは、いまはやめたのだと言っていますが・・(34頁)。

 

ーメディアを鵜呑みにしてしまっていた自分が情けないです。(えっ、でも先生はそれをどこで知ったのでしょうか・・・?)

著者:大事なことは、今までもこれからもアメリカは北朝鮮を攻撃はできないということです(36頁)。

 その根拠としては、戦略分析の観点からは、カール・ヴィンソンなどの空母打撃群を1~2投入しても、解決できるレベルではないこと。

  1994年にクリントン政権核兵器をもっていない段階の北朝鮮を、空爆によるピンポイント攻撃をしようとしましたが、アメリカ人を含む民間人が最大で100万人死亡する可能性があるというシュミレーションが出たので、攻撃は中止となりました。

  また当時アメリカは、中国やロシアに対して軍事的優位だったにもかかわらずできなかったのです。

  あの時の北朝鮮を攻撃できなかったのに、核兵器をもっている北に対してはなおさら先制攻撃はできないと思います。

 

ーそうですか。簡単に北朝鮮攻撃を言ってしまうのは、事情をよく知らないからということなのですね。それでは、北朝鮮問題はどうなるとお考えですか?

著者:アメリカが取りうる選択肢は、北朝鮮の核開発を現状レベルに凍結することです。それが現実的な選択肢というものです(38頁)。

  いいですか、ここが大事な所ですが、今回(2017年4月?)北の核実験が抑制されているのは、トランプ政権のアメリカと習近平政権の中国が、北朝鮮の抑え込みに成功している可能性があるということなのです。

  この米中協力こそ、日本にとって最大の脅威だということを日本人は知るべきなのです(38頁)。

 

ーそれが本書で一番訴えたい所ですね。

著者:そうです。今回の北朝鮮危機で米中関係が大きく変質した。米中接近が行われた。これこそ危機なのですよ(42頁)。

  朝鮮戦争時代の「血の同盟」よりも「北朝鮮を取り締まる」という次代の「責任ある覇権国」という姿を世界に印象づけるのが中国の新たな世界戦略だと思います。

  世界は米中協力による世界秩序、「米中共同覇権」がいま誕生しつつある。米中の「新型大国関係」です(43頁)。

  私が言いたいのは、この「米中共同覇権」の方が、北の核兵器よりも脅威だと感じるのです。日本人にはその政治的感覚が欠けています(43頁)。そのことを私は言いたいのです。

 

核兵器は怖くないのですか?

著者:いや、もちろん怖い。怖いのですが、それは物理的に怖いのであって、政治的にはアメリカを圧倒することが日程にのぼっている中国の覇権の方が怖いと言いたいのです。

  ところが日本人は目に見える物理的な危機には反応するにもかかわらず、目に見えない政治的な破局については感度が鈍いのです。

  危機が収まるのなら、アメリカと中国が手を組んで、北の暴走を止めてくれればいいという見方をする人もいるでしょうが、そうなったらどうなります?

  国家としての日本の存立が脅かされるのです。そのことを考え続けることが何よりも大切なのです(45頁)。

 

ー我が国の存立ですか。大事なことですが、日々の生活に追われてなかなか考えられていませんが、世界秩序の問題が大事だというメッセージは伝わりました。次回以降で、本書の内容を詳しく見ていきましょう。

 

(つづく)

 

 

アメリカ帝国衰亡論・序説

アメリカ帝国衰亡論・序説